「何か欲しいものはあるか」

ずい、と、泰明に迫られて、永泉はびくんと竦み上がった。

「え・・・ええええええと・・・」

お勤めを終えて、笛でも吹こうかと思っていたところに、いきなり泰明の訪問と脅し（？）である。

はっきり言って、怖い。

「答えろ」

でもきっと、答えないともっと怖そう。

「あ・・・ありませんっ・・・・」

びくびくと答えた永泉に、そうか、とだけ答えて、泰明はそこにどっかりと腰を下ろした。

そうは見えないが、かなり落ち込んでいる。

永泉の生まれた日は知っていた。以前に占いをしたことがあったから。

その日に祝いの品を贈るものだと、神子に教えられたのは先刻のこと。

だから早速、勢い込んで来たというのに。

がっくり。

でも、見た目はむっつり。

だから、永泉はおろおろ。

「や・・・泰明殿・・・・・？」

「なんだ」

「な・・・何故そのようなことを・・・」

「かまうな」

ひーん。

ちいさくなってしまった永泉に、泰明は何かまた失言をしたらしいことを悟ったが、何が悪かったのかは、やっぱりさっぱりわからない。

仕方ないので、もう一度、はじめから。

「お前は、何か欲しいものはないのか」

ゆっくり言うのが基本。そういえば先程は忘れていた。

「え・・・ええと・・・特には・・・」

だって、何か欲しいと思う前に兄上が下さるし。

「そうか」

またもや、がっくり。

でもやっぱり、見た目はむっつり。

むっつり・・・・・？

あれ？

永泉は、気配だけで泰明を観察してみた。

だって目が合ったら怖いもの。

むっつりとは、なんだかちょっと、ちがう？

「・・・・・あの、泰明殿、何故、欲しいもの・・・なのですか？」

怖々と、聞いてみる。

「存在することを感謝するような者がいたならば、その生まれた日に、祝い事をするものだと神子が言っていた。だからだ」

永泉はびっくりした。

泰明の行動には、いつだってきちんとした意味があるのだと知っていたけれど。

だってだって、そんな意味だなんてちっとも思ってもみなかったから。

だってだってだって・・・そんなふうに、思って下さっていたなんて。

「祝い事・・・ならば、物でなくとも良いのですか？」

今度は違う意味で、目が合わせられなくなって、永泉は下を向いたまま。

「うむ。そうなるな」

理屈はそれで合っている。

「あの、ならば・・・手を」

少ぅし声がちいさくなって、揃えた指先が、ちょっと震えた。

「手を、つないで下さいませんか？」

「なんだそれは」

言ったら永泉が泣きそうになった。

しまった、もうこれは禁句。決定。言っちゃだめ。

泰明は、とりあえず永泉の手を取った。

ほんのりあたたかくて、妙にやわらかい感触に内心びっくりしながらそれを軽く握ると、手の中のそれがひくん、と震えて、それからきゅうーっと握り返してきた。

なんだか気持ちがいい。

「あ・・・・」

永泉の吐息が音を立てて洩れて、それから聞こえたのは、柔らかな声。

「ありがとう、ございます」

「これくらいならば、いつでもしてやる」

これくらいでお前が喜ぶならば、いつだって、いくらだって。

そうしたら、下を向いたままだった永泉が顔を上げ、そして、本当に嬉しそうに笑ったのだった。

「ありがとうございます」

そのまま手を握りあって、暗くなって泰明が帰るまで、ふたりでずっとそうしていた。

幸せなしあわせな、誕生日でした。

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